あた〜らしい春が来た♪
 

「新婚さんバトン?」


     3




 『ちうしてって言ってくれたら起きるvv』

キスを“ちう”なんて言い回しで言ったところからして
確かに悪戯っぽい言いようではあったが。
子供っぽい無邪気さからとか、
逆に“どう?ちょっと困った?”なんていう、含みのあるどや顔ではなくて。
それは落ち着いていて、
むしろ誠実そうな、温厚で何とも頼もしい笑みを浮かべたお顔で言われたのが、
ブッダへ戸惑いを誘ってしまったらしく。

 “いかんいかん。/////////”

自分の方が年長なんだからという先輩風を吹かせたいわけじゃないけれど。
恋情というものへの経験値、
イエスの鷹揚さに比べ、自分はまだまだ追いついてもないらしいことを、
文字通りの身をもって自覚したようなもの。
大人が交わす物慣れた稚気よろしく、
何てことない一言として贈られたフレーズへ。
何でもないことだといなしたり、はいはいと流したりなんて思いも拠らず、
総身が熱くなるほどの含羞みにあっさりと襲われてしまったワケで。
そのまま固まりかかったブッダだったの、気づいてのことかどうなのか、

 『なんちゃって♪』

はんなりした笑顔をそのままふわりと和ませて。
さあ起きようと身を起こしたイエスだったため、
それで一区切りとなったようなもの、
じゃあ私もとキッチンスペースへ戻ってメニューの仕上がりを確かめてから、
布団を畳むイエスの手際を肩越しに見やり。
押入れへ上げ始めたところで、こちらは壁へ立てかけてあったコタツへ歩み寄り、
手際よく脚を起こして空いたスペースへと開いてゆく。
いつもの朝の段取りを手掛けるうち、
ちょっとした足取りの乱れも均されて、
目が合ったそのまま“ふふーvv”なんて微笑い合ったら、もう元通り。
イエスが顔を洗っているうちに、
昨夜のかぼちゃの煮物の残りとか、
絹ごし豆腐の甘辛煮たまごとじとか。
からし菜の漬物に、わかめのお味噌汁。
そういったあれこれを運んで来、
最後に炊飯器ごとご飯を運んで来てのさて。
炊き立てごはんを茶碗へよそって手を合わせ、
お行儀もよろしく“いただきますvv”と
二人で唱和して朝ごはんをいただく運びもいつもと同じ。

 「絹ごしのこれ、私大好き〜vv」

和食ならではな甘辛煮の味の按配は
この同居が始まってから口にしたらしいイエスだが。
ブッダの手掛けるバランスが随分とお好みに合ったらしく、
外食で他の人の手になる煮物を食べる折なぞ、
ちょっと甘いとか薄いとか、一丁前に評を言ったりするほどで。
白米のおかずにちょうどいい、お豆腐の玉子とじが好きだというのも、
他ならぬブッダの手で作られたこれにしか
恐らくは感じぬ感慨だろうにねと思えば、

 “…天界へ戻ったらどうするんだろ。///////”

野菜の味噌いための辛さとか、
すき焼きの塩梅とかだって、ブッダの味付けに馴染んで久しい身。
そこをどうするの?と思ったそのまま、
いやいや、それって自惚れかもと、自己反省しつつも頬がかあと熱くなる純情さよ。
そんな風に微妙なよそ見をしちゃったせいか、

 「…あ。」

イエスが微妙な声を上げ、
ハッとしたブッダも、視線をコタツの上へと引き戻される。
何か思いがけない味のものを食べちゃったという声音だったなと、
ほのかに母性も発揮されての反射であり。
皿や鉢を見まわしてから、イエスの箸がかざされている小鉢に気がついて、

 「あ・それは。」

D 旦那様があなたの作った朝食に好き嫌いを言います。どうしますか?

眉をしかめて口許を手のひらで覆っている彼なのへ、
ごめんごめんと手を伸べて、

 「ごめんね、それは私の分。」

キミのはこっちの胡麻和えだよと、
似たような小鉢のキュウリの薄切りのお浸し風を差し出してやる。
見た目は似ていたが、イエスが食べちゃったのは

 「やっぱり酢の物はまだ苦手?」
 「…うん。」

梅ぼしや梅肉和えもちょっと苦手で、
とはいえ、ブッダの側はたまにさっぱりしたのを恋しく思うため、
こうやって二通りの物を作ったりもするのだが。
ちゃんと見分けがつくようにしておかないと
こんな風な“事故”が起きちゃうのがご愛嬌。

 「酢豚や酢味噌和えは食べられるのにね。」

好き嫌いがあるのが恥ずかしいのか、
それとも愛する伴侶様の作ったものへの抵抗が悔しいか。
残念そうに言うものだから、
そこがまた可愛いなぁとやんわり笑えば、

 「そのせいで手間を掛けさせちゃうし。」
 「あ、そんなことはないってば。」

二通りのメニューを仕立てる手間を
ごめんねと言いたいらしいイエスだと気がついて、
笑顔がありゃまあと慌てたようなそれへ塗り替わる。

 「手間ったって、味付けが違っただけだよ。
  キュウリが傷みかけてたんで、
  ちょこちょこって刻んで作ったそれだし。」

むしろ、キュウリの買い置きを忘れてたのは失点もので、

 「三杯酢もゴマの味付けも、
  紅茶のお砂糖の加減くらいに慣れているから。」

手間の内に入らないしと笑ってくれたのへ、
イエスも安堵を覚えたか、含羞みながらも笑い返して。

 「傷んでたなんて言って、こっちの鉢のは全部綺麗なままみたいだよ?」
 「ああ、えっと…。////////」

そこは自然な手配りというか、無意識のうちの運び、
悪いところは自分の方へと集めてしまっている釈迦牟尼様らしく。

 「キミっていつもそうだよね。
  海苔巻きの端っことか出汁巻きの端っことか、
  必ず自分が食べちゃう。」

くすすと笑うイエスなのへ、
ああえっと・だからそのと、気おされていては世話がない。
遠回しな非難とか叱責とかいうのではなく、はたまた揶揄するでもなく。
強いて言えば困った人だねという苦笑を滲ませての鷹揚なお顔なのが、
こういう時だけ大人っぽいなんてずるいと
思わぬ包容力を感じて胸の底がムズムズ。
ああそうやって、キミはいつも私を甘やかしてくれるんだものねと、
その甘やかしにまだ慣れない身を歯がゆく感じつつ、

 「だからあのその、
  上手に出来たところだけ観てほしいだけだよ。」

見栄っ張りなだけで褒められたものじゃないってと、
もじもじ、お茶碗の中のご飯を箸の先でこねだすブッダへ、

 “ていうか、それってむしろ
  子供に美味しいところを食べさせたがる お母さんみたいなんだけど。”

早く一人前の恋人として頼られるようにならなきゃねと、
こちらはこちらで歯がゆさを感じないでもないイエス様だったようで。

 今日はいいお天気みたいだね。
 うん、風も暖かだったから着込まなくていいと思う。
 あ、そういえば、花粉はどうなの?
 大丈夫。しそ茶とか飲み始めてるしvv

そんな風に他愛ない会話をつづけつつ、美味しいご飯に箸も進む。
何処からか聞こえる小鳥のさえずりも軽やかに、
春がやって来ている立川の一角でございます。
 


  もちょっと続く。(笑)




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  *またぞろ、
   寒暖差がすさまじい1週間となりましたね。
   北海道では大嵐だったのが嘘みたいな春めきで、
   このごろの日本って読めないにもほどがある。

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